つけなくちゃいけないぜ。木乃伊《ミイラ》取が木乃伊式に、自分自身が精神科学の幽霊になったんじゃ鳧《けり》のつけようがないからね。アハハハハ、イヤ御苦労御苦労……ところで、その包の上にツン張り返っている四角い箱は何だいソレア……」
「ハイ。これが今回の心理遺伝事件の暗示に使われました一巻の絵巻物で、箱は私が指物屋《さしものや》に命じて作らせたもので御座います。……その呉一郎と申す青年は、誰かにこの絵巻物を見せられた結果、精神異常を来《きた》したものに相違ないと考えられるので御座いますが、今も申します通り、当局者と私の見込が全く違ってしまいまして、呉一郎の精神異状は自然的の発病か、もしくは精神病者を装っているものと認められておりますために、この絵巻物を当局者に参考材料として見せましても、頭から一笑に附しているので御座います。併し又、一方から申しますと、そのお蔭で、斯様《かよう》な貴重な参考材料が、都合よくこちらの手に這入りましたような訳で……」
「アハハハハ。そいつはよかったね。君がその風采で、警察や裁判所の奴等の前にそんな巻物を持出して、ソモソモこれが恐れ多くも勿体《もったい》なくも正木博士独特の御研究にかかる前代未聞の新学理、心理遺伝の暗示材料で御座る……なぞ云い出したら、大抵|面喰《めんくら》ってしまったろう。よく香具師《やし》と間違えられなかったね、アハハハハハハ」
「ハハハハハ。イヤ実は例の隠蔽[#「隠蔽」に傍点]になりませぬように形式だけ見せたので御座いますが、実はこちらの物にしたくてたまりませんでしたので……」
「如何にも……そこに抜かりはない男だからね……」
「イヤ……どうも……」
「……ところで今日の用事というのは、その書類と事件とを吾輩に押しつけに来たんかい」
「ハイ。それも御座いますが今一つ……現在、花嫁殺しの犯人と目されて、福岡|土手町《どてまち》の未決監に入れられております少年呉一郎の精神鑑定がお願い致したいので……」
「ウン。あの少年かい。あの少年の精神状態なら新聞記事だけで大抵様子は判っているよ。所謂《いわゆる》発作後の健忘状態という奴だ。つまりその絵巻物の暗示か何かで精神異状を来した結果、或る夢中遊行を起して、花嫁を殺したりしている奴を、無理矢理に取押えて夢中遊行を中絶させようとしたために大暴れに暴れ出した。そうして、そんな興奮から来た神
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