に相手を脅威すべく火花を散らしている……らしい事にお気が付かれましたならば、この事件の裡面に横たわっている暗流が如何に大きく、且つ、深いものがあるかを御推察になるのに充分であろうと信じまする次第で……。
「アーッ……アーッと。イヤア。とうとうやって来たね。ハハハハハハ多分もうやって来る時分だと思っていたが」
「ハア……ではもう、事件の内容は御存じなので……」
「知っているぐらいじゃない……これだろう……花嫁殺し迷宮に入る[#「花嫁殺し迷宮に入る」に傍点]……という……無論記事の内容にはヨタが多いだろうが……」
「さようで……併《しか》し私がこの事件に関係致しておりますことは、どうして御存じで……」
「……ナアニ……この間|一寸《ちょっと》用事があって君に電話をかけたら、午後の講義をブッ潰して、自動車でどこかへフッ飛んで行ったというから、扨《さて》は何か初まったナ……と思っていると、その日の夕刊に……結婚式の前夜に花嫁を絞殺す[#「結婚式の前夜に花嫁を絞殺す」に傍点]……とか何とかいう特号四段抜きか何かの記事が出たから、扨《さて》はこの事件に引っかかったナ……と察していた訳なんだがね」
「ナルホド。しかし今日私がこちらに伺いますことは、どうして御存じで……」
「ウン……それあ今日かいつか知らないがキッと来るには間違いないと思っていた。……というのはこの事件は……ホラ……例の心理遺伝[#「心理遺伝」に傍点]に違いないと最初から睨んでいたからね。君が調べ上げて吾輩の処へ持込んで来るのを実は待っていた訳だ。ハハハハハ」
「恐れ入ります。お察しの通りで……実は私は二年前からこの事件に関係致しておりましたので……」
「エッ。二年以前から……」
「さようで……」
「……フ――ン。二年前にも、こんな事件があったんかい」
「ハイ、それも同じ少年が、実母を絞殺致しました事件で……」
「ウーム。おんなじ奴が、おんなじ手段で……しかも実母を……ウーム……」
「実はその時に、こちらから進んで事件に関係致しました私は……この事件の犯人は別にいる。この少年が殺したのではない……と主張致しておったので御座いますが、その犯人がその後どうしても見つかりませぬ」
「君の炯眼《けいがん》を以てしてかい」
「……お恥かしい次第ですが、このような難解な事件に接しました事は、私も生れて初めてで……何と説明致した
前へ
次へ
全470ページ中228ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング