だけ現われるものならば、大して驚く事も、心配する事もないのだ。尤も今まで説明して来た程度の研究でも、そこいらにウジャウジャしているオタマジャクシ学者なんかにとっては眼の玉がデングリ返る程の大発見かも知れないが、しかし、斯《か》く申す吾輩、キチガイ博士にとっては、躄《いざり》の乞食が駈け出した位にしか感じない程度の新発見に過ぎないのだ。
吾輩が「心理遺伝」の恐しい事を、大声疾呼《たいせいしっこ》して主唱する所以《ゆえん》の第一は、それが斯様《かよう》にして精神病者に現われるばかりでない。普通人……すなわち諸君や吾輩にも精神病者と同様に、フンダンに現われている事が、明かに証明出来るからなのだ。
……ナニ。質問……イヤ。ちょっと待ってくれ給え。質問の意味はアラカタ解っている……それでは精神病者と、普通人との区別が、わからなくなるではないか。そんな篦棒《べらぼう》な話があるものか……と云うんだろう。
……ところが純正な科学者の立場からいうと、そんなベラボーな話が「ある」という以外に返事の仕様がないから困るのだ。しかも精神病者とおんなし程度どころの騒ぎではない。吾々……むろん諸君も含んでいるんだよ……の精神生活の中には、精神病者と寸分違わない……もしくはソレ以上のモノスゴイ「心理遺伝」が、朝から晩まで、一分、一秒の隙間《すきま》もなく活躍している……眠っている間も夢となって立現《たちあら》われて、執念深く吾々の心理を支配しているから困るのだ。そのために自分の心が、自分で自由にならない場合が非常に多いから困るのだ。おかげで新聞、雑誌の社会記事が、無限に提供されて行く事になるのだから、問題にしない訳に行かなくなって来るのだ。
……これはズット以前、新聞記者にチョット話した事がある、心理遺伝の中でも極く極く手軽い実例ではあるが、無くて七癖、あって四十八癖という奴は、精神病者と同様に、自分の気持が、自分で自由にならない好適例である。しかも、それを他人からドンナに笑われても、又は自分自身で是非とも改めなければならぬ必要を感じていても、どうしても止める事が出来ないのは、ソレが今いう心理遺伝のあらわれだからである。……泣くまいと思ってもツイ涙が出る。憤《おこ》る場合でないと思っても、思わずムラムラッと来て、前後を忘却してしまうのも、やはり一時的の精神の偏《かたよ》りを、自分で持ち直
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