》エロ、グロ、ノンセンスのモノスゴイところを取交《とりま》ぜて科学文明の屋根裏から地下室……アタマ文化の電車通りから横路地に到るまで、昼夜不断にウヨウヨヒョロヒョロと、さまよい廻っているのだ。……のみならず、その怪奇現象ソレ自身の一つ一つが又、ソックリそのままに、聴診器にも這入《はい》らず、レントゲンにも感じないデリケートな脳髄の故障を、一つ一つにハッキリと証拠立てているから面白いではないか。
まず第一に、何よりも憤懣に堪えないのは、現代の所謂『物を考える脳髄』諸君が、その脳髄ソレ自身と全身の細胞との間に、こうした第三条の応急規約が存在している事実を、夢にも気付かないでいることだ。……だから『脳髄なんかイクラ使ったって減るもんじゃない』とか何とか云って、ヤタラに頭を抱えたり、首をひねったりして、無理にも脳髄に物を考えさせようとする習慣を一人残らず持っていることだ。……脳髄が物を考える処でない……単純な反射交感専門のアンポンタン・ポカン局……という事実にミジンも気付かないで、物を考える専門のお役所みたいに心得て何でもカンでも脳髄に考えさせようと努力している事だ。……電話交換局に市役所の仕事を押し付けて平気でいることだ。
そのために脳髄局の交換手たちがドレ位、事務の過重負担に悩まされているか……そのためにドレくらい思い切った反射交感事務の間違い……幻覚、錯覚、倒錯観念の渦巻きを渦巻かせているか、殆ど想像も及ばないであろう。
論より証拠……事実は眼の前だ。
アンマリ脳髄で物を考え過ぎると、電流を通じ過ぎたコイルと同様に、脳髄の組織の全体が熱を持って来て、その反射交感の機能が弱り初める。そうすると全身の細胞に含まれている色んな意識が、お互い同志に連絡を喪《うしな》って、めいめい勝手な自由行動を執《と》りはじめる事になる。ソイツが軽い、半自覚的な、意識の夢中遊行となって、全身の細胞が作り出している意識の空間を無辺際に馳けまわるのだ。……諸君が何か知ら考え詰めてアタマの疲れた時分にウットリと凝視している、アノ取止めのない空想とか、妄想とかいうものがソレで、そのうちに脳髄がイヨイヨ疲れて眠り込んで来ると、そんな意識同志の連絡もイヨイヨ絶え絶えになって来る。そうして次第次第に辻褄の合わない夢になって行く状態は、諸君が小説を読みさして眠りかける時だの、教室や電車の中で舟を漕《
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