称する大悪魔の正体……『呪われたる唯物文化の偶像』の正体を徹底的に看破する事が出来たのだ。全人類界の大悪夢……『物を考える脳髄』に関する迷信、妄執を喚《よ》び醒ますべく『絶対無上の大真理』に逢着《ほうちゃく》する事が出来たのだ。
……しかも……その大真理なるものは、それが余りに簡単で、平凡であり過ぎるために、却《かえ》って誰にも気付かれなかった程の驚異的な大真理であった。初めて脳髄が発見されて以来、ベーコン、ロック、ダーウィン、スペンサー、ベルグソンなんどに到るまでのアラユル非凡な脳髄たちが、彼等自身に認識し得なかったところの『脳髄の真活躍』そのものでなければならなかった。地上二十億の生霊を弄殺《ろうさつ》しつつある『脳髄の大悪呪文』を焼き棄てる一本の燐寸棒《マッチぼう》に外ならなかったのだ。
諸君よ。欣喜雀躍《きんきじゃくやく》せよ。勇敢に飛び上り、逆立ち、宙返りせよ。フォックストロット、ジダンダ、ステップせよ。
交通巡査も安全地帯も蹴飛《けと》ばしてしまえ。
古来今に亘る脳髄の専制横暴……人類最後の迷信から解放された凱歌を歌え。
吾輩……アンポンタン・ポカンは遂に此《かく》の如くにして、地上の大悪魔を諸君の眼前にまで追究して来たのだ。神出鬼没、変幻自在の怪犯人、残忍非道のイタズラ者のトリックの真相をドン底まで突き止めて来たのだ。そうしてタッタ今、その大悪魔の正体……ポカン自身の脳髄を、諸君の眼の前にタタキ付けて、絶叫する光栄を有するのだ。……曰《いわ》く……
……脳髄は物を考える処に非ず……
……と……」
× × ×
アッハッハッハッハッハッ。どうだい。痛快だろう。超特急だろう。絶対的ブラボーだろう。全世界二十億の脳髄をダアとなすに足る、超特急探偵小説だろう。
……ナニイ。まだ解らない……?……。
アハアハアハ。それは脳髄で考える癖がまだ抜け切れないからだよ。「精神は物質也」式の唯物科学的迷信が、まだ頭の隅のドコかにコビリ付いているせいだよ。
聞き給え。吾が青年名探偵アンポンタン・ポカン博士は、タッタ今地上にタタキ付けたばかりの泥ダラケの脳髄を指して、コンナ論証を続けているのだ。
× × ×
「……見よ……聞け……驚け……呆れよ。
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