証出来る。云々。
絶対探偵小説[#「絶対探偵小説」は本文より5段階大きな文字]
脳髄は物を考える処に非ず[#「脳髄は物を考える処に非ず」は本文より5段階大きな文字]
===正木博士の学位論文内容===[#「===正木博士の学位論文内容===」は本文より2段階大きな文字]
[#地から2字上げ]一記者
ナニ。吾輩の学位論文「脳髄論」の内容がナゼ学界に発表されないかッテ……アハハ。馬鹿にするな。物議を起すのを怖がって発表を差控えるような吾輩じゃないよ。実はチョット書き添えたい事があるから、手許に引取っている迄の事さ。
その内容を話せって云うのか。ウン。それあ話せない事はないさ。……しかし話したら直ぐに新聞に書くだろう。実はこの前《まい》に吾輩が話した「地球表面上は狂人の一大解放治療場」云々の記事を、君の新聞に書かれたんで、少々弱らされたよ。自家広告の宣伝記事だというので、ダイブ方々で八釜《やかま》しかったらしいんだ。
ナアニ。吾輩は平気さ。何と云われたってビクともするんじゃないが、吾輩がすこし大きな事を云うと、事なかれ主義の総長や、臆病者の学部長が青くなって心配するのが気の毒でね。鶴川君の「万有還金」の研究や、赤井君の「若返り手術」以来、九大には山師ばかり居るように誤解されているからね。まして況《いわ》んや今度の「脳髄論」の内容と来たら、前の解放治療の話に何層倍輪をかけた物騒なテーマを吹き立てているんだから……。
フン。書かないから話せというのか。新聞記者の書かない口上も久しいもんだが大丈夫かい。ウン……そんなら話そう。ところでドウダイ……葉巻を一本……上等のハバナだ。吾輩の気焔の聞き賃、兼、新聞記事の差止め料だ。チット安いかね。ハハハハハハ。きょうは吾輩|閑散《ひま》だからね。少々メートルを上げるかも知れないよ。
……時に君は探偵小説を読むかい。ナニ読まない。読まなくちゃいかんね。近代文学の神経中枢とも見るべき探偵小説を読まない奴はモダンたあ云えないぜ。ナニ……読み飽きたんだ……ウハハハ。コイツは失敬失敬。さもなくとも君の商売は新聞記者だったっけね。アハハハハ。イヤ失敬失敬。
それじゃここに吾輩が秘蔵している、もっとも嶄新《ざんしん》奇抜な探偵事実談があるが一つ拝聴してみないか。実はどこかの科学雑誌にでも投稿してやろ
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