たり。こちらの不正が曝《ば》れると見込めば。当の秘密の入院患者に。注射一本、水薬ポッタリ。あとで解剖してみるとても。そんな薬を使わにゃならぬ。ほどに暴れた患者かどうだか。今の医学の力じゃわからぬ。そこがマッタク博士の附け目じゃ。精神病医の手品の種《たね》だよ……スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。精神病医の手品の種だよ。しかもまだまだ不思議の数々。流石《さすが》キチガイ地獄の本場じゃ。ホントウ国でもタマゲタ市《シチー》で。マッタク博士が大胆不敵に。そんな商売しておりながら。同じ仲間の地道なお医者に。指を一本指されぬばかりか。文句云われず批難を受けない。政府、警察、新聞記者まで。鳴りを静めて見ているばっかり……スチャラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。鳴りを静めて見ているばかりじゃ。つづく不思議がホントウ国の。機密費用の大|弗箱《ドルばこ》だよ。そこを洩れ出す巨万のお金が。マッタク博士のポケットの中へ。ソロリソロリと音さえ立てない。それかばかりかマッタク博士の。広い肩幅大きな胸には。並ぶメタルや勲章の数々。それも国家に偉大な功労。捧げた文官武官の連中が。滅多《めった》に貰えぬドエライ奴だよ。独逸《ドイツ》、仏蘭西《フランス》、英吉利《イギリス》、露西亜《ロシヤ》。日本なんぞは無かったようだが。それにつけてもマッタク博士が。そんな世界の強国相手に。ドンナ偉大な功労つくせば。コンナ勲章貰えたものかや。これはドウジャと魂消《たまげ》るばっかり……スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ……

       七

 ▼スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコ。あ――ア。さても皆さん退屈様とは。思いますれどここらで止めては。仏作って魂入れずじゃ。破れカブレの封切序《ふうきりじゅん》に。並べ上げたる不思議の数々。眼にも止まらず耳にも聞こえぬ。科学文化の地獄の正体。底のドン底のドンドコドンまで。タタキ破って曝《さ》らげて拡ろげて。これはホントにタマゲタ話じゃ。マッタク凄《すご》いよ成る程そうかと。お立会い衆《しゅ》が合点《がてん》の行くまで。ザット御機嫌伺いまする。又と聞かれぬ地獄のチョンガレ。世にも不思議な木魚の話じゃ……スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。又と聞かれぬ地獄のチョンガレ。聾唖《お
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