し》か掴ませものかと。どなたも御不審なさるであろうが。チョット待ったり話は順序じゃ。世にも馬鹿げた内幕話じゃ。診察治療が出来ないお蔭で。お医者がステキに儲《もう》かる話じゃ。これがホンマの阿呆陀羅経《あほだらきょう》だよ……スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……

       二

[#ここから3字下げ]
スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……
[#ここで字下げ終わり]
 ▼あ――ア――ああア。扨《さて》も昔のその又昔。むかし昔のその大昔。科学知識の進まぬ頃では。人の身体《からだ》の病気というても。人の心の病気と同様。何が何やら解らぬために。診察治療が当てズッポーだよ。家相、方角、星占いだよ。何《な》んぞ彼《か》んぞの障《さわ》りというては。祈祷、禁厭《まじない》、御神水《おみず》じゃ、お守札《ふだ》じゃ。御符《ごふう》なんぞを頂戴させて。どうぞ、こうぞで済まして来たが。それじゃ治療《なお》らぬ病気の数々。そこで薬が発見されます。服《の》めば病気がケロリとよくなる。それをたよりに調べた揚句《あげく》が。人の病気は身体の中の。ここが斯様《かよう》に狂うが原因《もと》じゃと。わかった理屈が医学のはじまり。今では解剖、生理に病理。医化学、細菌、薬物そのほか。外科じゃ内科じゃ、皮膚科じゃ、耳鼻科じゃ。眼科、整形、婦人や小児と。隅から隅まで手に品かえて。水も洩らさぬ器械やお薬。人の身体の狂いを治療《なお》す。科学知識の大光明が。日々に明るく輝やき渡るよ……スカラカ、チャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。日々に明るく輝やき渡るが。これに引き換え精神病だよ。人の心の狂いを治癒《なお》す。医者の診察、手当ての仕方は。ドンナ進歩をしたかと見ますと。ズント昔は精神病者を。神の心が移ったものと。畏《おそ》れ敬い礼拝したり。又は生き霊、死霊の所業《しわざ》と。物を供えて大切《だいじ》にかけたが。それはまだしも処によっては。こいつに悪魔が憑《つ》いたというので。その頃お医者と裁判官の。役目をしていた僧侶《ぼうず》や巫女《みこ》が。見付け次第の指さし次第に。槍《やり》や刀剣《かたな》や、投げ縄、弓矢。棍棒《こんぼう》担《かつ》いだ役人共が。片《かた》っ端《ぱし》から頭を砕いて。手足胴体チリチリバラバラ。焼いて棄てたり樹の根に埋めたり。ちょ
前へ 次へ
全470ページ中94ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング