ョナルの言葉で『ココナットの実』と申しますオモチャを二つ持っております。それは輸入禁止になっておりまする品物でナカナカ手に這入らない珍らしいもので御座いますが、私は、その取次ぎを致しておりまするので……」
「そのオモチャは何に使うの……云って御覧……」
ハラムは急に両手をさし上げた。いかにも勿体《もったい》をつけるように頭を烈《はげ》しく振り立てた。
「イヤ……イヤイヤイヤ。それは、わざと申し上げますまい。お許し下さいませ。只今はそれを申上げない方が、運命の神様の御心に叶うからで御座います。……しかし……それはもう間もなく、おわかりになる事で御座います。私はその『ココナットの実』を、きょう中に二つとも、ある人の手に渡すので御座います。その方は、お姫《ひい》様がよく御存じの方で御座いますが……そうしますると、その『ココナットの実』が、その方と、それから矢張り、お姫《ひい》様がよく御存じのモウ一人の方の運命を支配致しまして、お二方《ふたかた》ともお姫《ひい》様のところへは二度とお出《い》でになる事が出来ないような、恐ろしい運命に陥られる事になるので御座います。お姫《ひい》様の眼の前で……お身体《からだ》の近くで、そのような恐ろしい事が起るので御座います。そうして……そうして……お姫《ひい》様は……お姫《ひい》様は……」
「ホホホホホホ。キットお前一人のものになると云うのでしょう」
ハラムは真赤な上にも真赤になった。眼に泪《なみだ》を一パイに溜めた。口をポカンと開いて、今にも涎《よだれ》の垂れそうな顔をしたが、両手をさし上げたまま床の上にベッタリと、平蜘蛛《ひらぐも》のようにヒレ伏してしまった。
「もういいもういい。わかったよわかったよ。それよりも早く御飯の支度をして頂戴……お腹がペコペコになって死にそうだから……」
妾のお腹の虫が、フォックス・トロットとワルツをチャンポンに踊っていた。そこへ美しい印度式のライスカレーが一皿分|天降《あまくだ》ったら、すぐに踊りをやめてしまった。妾はお腹の虫の現金なのに呆れてしまった。それからハラムの御自慢の、冷めたいニンニク水をグラスで二三杯流し込んでやると、虫たちはイヨイヨ安心したらしく、グーグーとイビキをかいて眠り込んでしまった。だから妾もすぐに、寝台の上に這い上って、羽根布団にもぐり込んで寝た。死んだようにグッスリと眠って
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