直線に北海道に帰って来ましたAは、その後の私の動静を、詳細に亙《わた》って探りまわった序《ついで》に、二人の間に愛の結晶が出来かけている事実まで、透《す》かさずキャッチしてしまいますと、なおも最後的な脅迫材料を掴むべく、もう一度、極《ごく》秘密の裡《うち》に、石狩川の上流を探検に出かけたものです。
彼はモウその時には、旭岳の斜面の一軒家が、私の棲家であったことを確信していたものでしょう。ですからそこまで突込んで、何かしら動きの取れない材料を掴んだ上で、今の新聞紙面か何かと一緒に、私へ突付ける心算《つもり》だったのでしょう。
ところがそこまではAの着眼が百二十パーセントに的中していたのですから、先ず先ず大成功と云ってもよかったのですが、それから先がどうもイケませんでした。
……というのは外でもありません。流石《さすが》に悪魔式の明敏なアタマを持っておりましたAも、ここで一つの小さな……実は極めて重大な手落《ておち》をしている事に、気が付かないでいるのでした。すなわち樺戸に訪ねて来ました、女給の久美子の行衛《ゆくえ》について、深い考慮を払っていなかったことで、つまり久美子のああした行
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