鎖をもっともっと長く作ると、それに掴まってお兄さんに会いにゆくのです」
「あら、そう。それじゃ、あたしたちもお加勢しましょうね」
 ミミのお友達の女の子たちは、みんなこう云って、方々から花を取ってきてミミに遣りました。ミミは草の葉を綟《よ》り合わせた糸に、その花を一つ一つつなぎまして、長い長い花の鎖にしてゆきました。
 夕方になると、お友達はみんなお家《うち》へ帰りましたが、ミミはなおも一生懸命に花を摘んでは草の糸につなぎました。
 その中《うち》に日が暮れると、花の咲いているのが見えなくなりましたので、ミミは草の中に突伏《つっぷ》してウトウトとねむりながら、月の出るのを待ちました。
 やがて、何だか身体《からだ》がヒヤヒヤするようなので、ミミは眼をさまして見ますと、どうでしょう、いつのまにのぼったか、お月様はもう空のまんなかに近付いております。
 ミミは月の光りをたよりに花の鎖をふり返って見ました。いろいろの花をつないだ艸《くさ》の糸は、湖のまわりを一まわりしてもまだ余るほどで、果《はて》は広い野原の艸《くさ》にかくれて見えなくなっております。
 ミミはこの花の鎖が湖の底まで達《とど》くかどうかわかりませんでした。
 けれども、思い切ってその端をしっかりと握って、湖の中に沈んでゆきました。
 湖の水が濁っているのは、ほんの上の方のすこしばかりでした。下の方はやはり水晶のように明るく透きとおって、キラキラと輝いておりました。
 その中にゆらめく水艸《みずくさ》の林の美しいこと……。ミミをふり返ってゆく魚の群の奇麗なこと……。
 けれどもミミは、ただ兄さんのルルのことばかり考えて、なおも底深く沈んでゆきました。
 そうすると、はるか底の方に湖の御殿が見え初めました。
 湖の御殿は、ありとあらゆる貴《たっと》い美しい石で出来ておりまして、真珠の屋根が林のようにいくらもいくらも並んでおりました。
 ミミは、その一番外側の、一番大きな御門の処まで来ますと、花の鎖を放して中へ這入って行きました。そうして、もしや兄さまがそこいらにいらっしゃりはしまいかと、ソッと呼んで見ました。
「ルル兄さま……」
 けれども、広い御殿のどこからも何の返事もありません。はるかにはるかに向うまで続いている銀の廊下が、ピカピカと光っているばかりです。
 ミミは悲しくなりました。
「兄さんはいらっしゃ
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