ミニューム粉末をしきりに撒《ふ》りかけていたが、やがて犬田博士の膝よりももすこし下部に当る処から不等辺三角形に重なり合った、荒い皮膚の褶紋を発見すると、流石に嬉しかったと見えて、真赤に上気した額の汗を拭き拭き一同に指示した。
「この犯人は、やはり日本人ですね。日本人でない限り膝小僧を露出する犯人は居ない筈ですからね。しかしかなり背の低い奴と見えて、しゃがんでこの鍵穴を覗く拍子に、過《あやま》ってコンナ処に膝小僧を押付けたのです。多分本人は無意識の中に忘れてしまっているだろうと思いますが……」
 署長も太いため息をしいしい安心したように汗を拭いた。蒲生検事をかえりみて云った。
「これだからR市にも鑑識課を一つ置いてくれと僕がイツモ云っているんだよ」
 一同がソレゾレに同感らしく首肯《うなず》いた。
 そのうちに犬田博士は寝室に這入った。屍体を除いた以外の情況は、その当時のままになっている寝台の上下左右を詳細に調べた後に、検事をかえりみて云った。
「その当時に使用した電燈のコードは、この寝台の下に転がっている豆スタンドのものでしたかね」
 横合いから司法主任が引取って答えた。
「そうです。
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