。万一|過《あやま》ってマリイ夫人に騒がれるような事があってもタカが女一人……という犯人の心算ではなかったでしょうか。もっともこれはまだ、僕の臆測の範囲を出ていない話ですが……」
犬田博士の話の切目を待兼ねていた司法主任が、多少の興奮気味に佩剣《はいけん》の※[#「木+霸」、第3水準1−86−28]《つか》を引寄せた。
「……そうすると……先生のその臆測では……その犯人は麻酔剤を使用し、万能鍵を持っている奴ですから……相当の奴ですね」
犬田博士は軽く手を振って笑った。
「ハハハ。イヤ。まだ部屋の中を見ないのですから結論を附けるには早過ぎます。目下のところ、確定しているのは東作が犯人でないことと、犯人らしい奴が麻酔薬の使用に狃《な》れている事と、この二つだけです。しかしソンナ犯人が、この方面へ立廻わった形跡があるのですか」
司法主任はちょっと返事を躊躇して署長の顔を見た。署長は鷹揚にうなずいた。
「フウム。彼奴《きゃつ》とするとチット立廻わり方が早過ぎるようじゃがなあ。この家の周囲や、出入りの模様を研究するだけでも一週間ぐらいかかる筈だが……彼奴《きゃつ》だとすると……」
「ちょっ
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