痛んでおりました。しかし白昼のようにいい月で御座いましたから、竹の皮の庭|草履《ぞうり》を穿きまして、裏の松原に出て用を足しますと、夕方の飲残りの酒を持って松原を抜けまして、外海岸の岩山に登って、そこの草原で燗瓶《かんびん》の口から喇叭《ラッパ》を吹きながら、銀のように打ち寄せて来る真夜中の大潮を見ておりまする中《うち》に、迎え酒が利きましたかして、又グッスリと眠ってしまったらしゅう御座います。そのうちに先刻の倫陀病院の代診さんに起されまして、ロスコー様が、海岸にブッ倒れて御座ったのを、タッタ今倫陀病院に担ぎ込んでいる。様子がおかしいから直ぐに介抱に来てくれと云われました時にはビックリ致しました。……いいえ。まったくで御座います。マリイ様がお亡くなりになりました事を聞きましたのは今が初めてで……何とも早や申上げようも御座いませぬ。いつも奥様から励まされ励まされしてヤット会社へお出かけになっておりました位気の弱いロスコー様が、あのようにお取乱しになるのも御尤《ごもっと》もな事で……。
私は只今、夜露に打たれましたせいか、身体《からだ》中が骨を引抜かれたようにカッタルう御座います。おまけ
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