都度に、大声で叫びたいような気持になる。
その後福岡に来て、ある新聞の記者をしていた時分のこと。
ある事件で朝刊の市内版を遅らしたために、三時近くなったので、主筆の自宅に押しかけて泊めて貰うつもりでタタキ起したがなかなか起きない。ねむさは睡し、立っているうちに蚊は喰うし、情なくなって来たので、少々ヤケ気味で玄関の扉を力一パイ押してみると、内部に照《とも》った電燈の光で、扉と扉の合わせ目に引っかかっている掛金が見えた。
しめたと思ってナイフで突き外して、中に入って、もとの通りに締めて、廊下の突き当りの袋戸から蚊帳と蒲団を出して応接間に敷いて、大の字になりながら窓際に並べてある朝顔の鉢を見ているうちに、グッスリと睡ってしまった。
主筆の夫人は美人という評判であったが、いつもの通り早く起きて、朝顔を見るべく応接間の扉を開くと、悲鳴をあげて、二階に駈け上ったという。その後主筆の家の玄関の締りが閂に改められたのは、どうやら夫人の希望らしい。
あの時に、万一主筆が留守だったら……と思うと、今でも冷汗が出る。
これ位で勘弁して下さい。
底本:「夢野久作全集7」三一書房
1970(昭和45)年1月31日第1版第1刷発行
1992(平成4)年2月29日第1版第12刷発行
初出:「探偵趣味」
1927(昭和2)年6月3巻6号
入力:川山隆
校正:土屋隆
2007年7月21日作成
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