団にもぐり込んでしまいました。
「アラ、五郎さんはまだ寝ているよ。何て強情な児でしょう。よしよし、今にきっとお腹が空いておきて来るだろうから」
とお母様は独り言を云って、台所の方へお出でになりました。五郎さんは可笑《おか》しくて堪らず、蒲団の中でクスクス笑いましたが、そのうちにうとうと睡ってしまいました。
するとやがて何だか恐ろしく苦しくなって来ましたので、どうしたのかと眼を開いて見ますと、いつ日が暮れたのか、あたりは真暗になっていて何も見えません。その中《うち》に最前喰べたお菓子連中が、めいめい赤や青や紫や黄色や又は金銀の着物を着て、男や女の役者姿になって大勢|居並《いなら》んでいるのがはっきりと見えました。
「こんなに大勢、一時にお菓子たちがお腹《なか》の中で揃った事は無いわねえ」
とお嬢さん姿のキャラメルが云いました。
「そうだ、そうだ。それに五郎さんの胃袋は大変に大きいから愉快だ」
と道化役者のドロップが云いました。黒ん坊のチョコレートは立ち上って、
「一つお祝いにダンスをやろうではないか」
と云うと、ウエファース嬢が、
「それがいい、それがいい」
「万歳万歳、賛成賛成」
と皆が総立ちになって手を挙げました。すると忽《たちま》ち五郎さんのお腹がキリキリと痛くなりましたので、思わず、
「苦しい苦しい」
と叫びました。
「あれ、苦しいと言っててよ」
とドロップ嬢が心配そうに云いますと、兎の姿をしたワッフルが笑って、
「アハハハハ、自分が悪いのだから仕方がない。まあ暫く辛抱してもらうさ。さあさあ、踊ったり踊ったり」
と云ううちに、もう踊り初めました。
ボンボンが太鼓をたたく。ローリングがピアノを弾く。ウエファース嬢が歌い出す。それにつれて五色の着物を着た小人のミンツ達を先に立てて、キャラメル嬢をまん中にワッフルの兎、ドロップの道化役者、チョコレートの黒ん坊、ドーナツの大男、そのほかいろいろのお菓子達が行列を立てて行くあとから、スポンジ嬢が手鼓《てつづみ》をたたきながらついて行きます。
こうして沢山のお菓子たちがみんな一所に輪を作ると、一二三というかけ声ともろ共に一時に踊り出しました。
「プーカプーカ、チョコレート
プーカプーカ、ローリング
ミンツ、ワッフル、キャラメル、ウエファース
ドーナツ、スポンジ、ボンボンボン
太鼓の響はボンボ
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング