った事が、町から電話で知らせて来たとかで、間もなく若い者たちは放免されることがわかったので、やっと村中が落ち付いた。
一方に別荘はこの騒動のあった日から、門も雨戸もスッカリ閉め切って、空屋同然の姿になってしまったが、そのあくる日のこと……村の女房や守《もり》っ娘《こ》が四五人づれで、恐る恐る様子を見に行ってみると……雨戸の外の小松の蔭にブラ下がった底無しの籠の中に、いつの間にか赤い鳥が帰っていた。そうして昨日《きのう》の残りの餌をつつきながら一生懸命で叫んでいた。
「馬鹿タレ……バカタレエ……バカタレバカタレバカタレバカタレバカタレエッ……」
八幡まいり
収穫《とりいれ》が済んだあとの事であった。亭主の金作が朝早くから山芋掘りに行った留守に、あんまりお天気がいいので、女房のお米《よね》は家《うち》を閉め切って、子守女《こもり》のお千代に当歳の女の児《こ》を負わせた三人連れで、村から一里ばかりあるH町の八幡宮に参詣《さんけい》した。
帰りかけたのは午後の一時頃であったが、お宮の裏の近道に新しく出来たお湯屋を見かけると、お米はチョット這入《はい》ってみたくなったので、誰も居ない番台の上に十銭玉を一つ投げ出して板の間に上った。眼を醒《さ》ましかけた子供に乳を飲まして寝かしつけて、ネンネコ袢纏《ばんてん》に包んで、隅ッ子の衣類《きもの》棚の下に置いて、活動のビラを見まわったりしながら、お千代と一所《いっしょ》に湯に這入ったが、ちょうど人の来ない時分で、お湯が生温《なまぬる》かったので、二人はいい気持になって、お湯の中でコクリコクリと居ねむりを初めた。
そのうちに一かたげ[#「かたげ」に傍点]眠ったお米はクサメを二ツ三ツして眼を醒ましたが、高い天窓越しに、薄暗く曇って来た空を見ると、慌てて子守のお千代を揺り起した。
「チョット。妾《あたし》は洗濯物をば取り込まにゃならぬ。一足先に帰るけに、お前はあとから帰って来なさいよ。湯銭《ゆせん》は払うてあるけに……」
お千代は濡れた手で眼をコスリながらうなずいた。お米はソソクサと身体《からだ》を拭いて着物を着て、濡れた髪を掻き上げ掻き上げ出て行った。
それからお千代は又コクリコクリと居ねむりを初めたが、そのうちに鼻から湯を吸い込んで噎《む》せ返っているうちにスッカリ眼が醒めてしまったので、ヤット湯から上って、ま
前へ
次へ
全44ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング