の夏祭り時にナア……ええか……」
禿頭はニヤニヤ笑いながら桃の刺青の耳に口を寄せた。子守女《こもり》たちに聞こえぬようにささやいた。
「……ナ……ナ……そうしてナ……もしそれを、それだけ出さんと吐《ぬ》かしおったら構う事アない。あの座敷にお獅子様を担ぎ込むんよ。例の魚血《なまぐさ》を手足に塗りこくって暴れ込むんよ……久し振りにナ……」
「……ウム……ナルホド……ウーム……」
「……ナ……高が守《もり》ッ子《こ》の云う事を聞いて、云いがかりをつけるよりも、その方が洒落《しゃれ》とらせんかい」
「ウン。ヨシッ。ワカッタッ。みんなであの座敷をブチ毀《こわ》してくれよう」
「シイッ。聞こえるでないか……外へ……」
「ウン。……第一あの嬶《かか》あ面《づら》が俺ア気に喰わん。鼻ッペシを天つう向けやがって……」
「アハハハハ。あんなヒョロッコイ嬶《かか》が何じゃい。俺に抱かして見ろ。一ト晩でヘシ折って見せるがナ」
「イヨーッ豪《えら》いゾッ。トッツァン。そこで一杯行こうぜ……アハハハハハハ」
「ワハハハハハ」
そんな事でその時は済んだが、サテそのあくる日の正午近い頃であった。
七ツと六ツぐらいの村の子供が二人連れで、素裸《すはだか》のまま、浜へテングサ[#「テングサ」に傍点]を拾いに来ていたが、いい加減に拾って帰りがけに、炎天の下の焼け砂の上を、開け放された別荘の裏木戸の前まで来ると、キョロキョロと中をのぞきながら、赤煉瓦塀《あかれんがべい》の中へ這入り込んだ……、家中《うちじゅう》の者がモーターボートで島巡りに出て行くところを今朝《けさ》から見ていたので……そうして縁側の小松の蔭に吊してある、赤い鳥の籠に近付きながら恐る恐るのぞきこんだ。
その顔を見ると人なつこいらしい赤い鳥は、突然頭を下げて叫び出した。
「モシモシ。モシモシイ。コンチワ……コンチワコンチワ……」
二人の子供はビックリして砂だらけの顔を見合わせた。
それを見ると赤い鳥はイヨイヨ得意になったらしく、一心に子供の顔を見下しながら、低い声で歌を唄い出した。
「……ジャン、チェーコン、リウコン……コンリウ、コンジャン、チェーコンチェー……チェーリウコンコンジャンコンチェー……じゃんすいじゃんすい、ほうすいほう……すいすいじゃんすい、ほうすいほう……」
子供は又も黒い顔を見合わせた。
「何て云いよるのじ
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