ないようにするには、たいへんな努力と注意が必要だった。
 ふたたび視線を上の方へ向けたときまでには、半時間か、それともあるいは一時間も(というのは完全に時間を注意することはできなかったから)たっていたかもしれない。そのとき見たことで、私はすっかり狼狽《ろうばい》し、驚かされた。振子の振動は一ヤード近くもその振幅を増しているのだ。当然の結果として、その速度もまた大きくなっていた。しかし、私がもっとも不安だったのは、それが眼に見えて下降してくる[#「下降してくる」に傍点]という考えであった。それから私は、その振子の下端がきらきら光る鋼鉄の三日月形になっていて、先端から先端までは長さが一フィートほどあり、その先端は上の方を向き、下刃は明らかに剃刀《かみそり》の刃のように鋭いということを見てとった。――それを見てどんなに恐ろしく感じたかは言うまでもない。それは剃刀のようにがっしりしていて重いらしく、刃の方からだんだんに細くなって、上は固くて幅の広い部分になっている。そして真鍮《しんちゅう》の重い柄につけてあって、空気を切って揺れるときに全体がしゅっしゅっと音をたてた[#「しゅっしゅっと音をたてた」に傍点]。
 私はもう、拷問の巧みな僧侶によって自分のために用意された運命を疑うことができなかった。私があの落穴に気がついたということは、とっくに宗教裁判所の役人どもには知れていた。――あの落穴[#「あの落穴」に傍点]――その恐怖こそ私のような大胆不敵な国教忌避者のために用意してあったのだ。あの落穴[#「あの落穴」に傍点]――それこそ地獄の典型であり、噂によれば彼らのあらゆる刑罰のなかの極点と考えられているものだ。この落穴に落ちこむことを、私はまったく偶然の出来事によってのがれたのであった。そして私は驚愕《きょうがく》、つまり拷問の罠《わな》に落ちこんで苦しむことが、この牢獄のいろいろな奇怪な死刑の重要な部分となっていることを知った。深淵へ落ちなかったからには、私をその深淵のなかへ投げ込むということは、かの悪魔の計画にはなかった。そこで(ほかにとるべき方法もないので)それより別の、もっとお手やわらかな破滅が私を待つことになったのだ。お手やわらかな! こんな言葉をこんな場合に使うことを思いつくと、私は苦悶《くもん》のなかでもちょっと微笑したのだった。
 鋼鉄の刃のもの凄い振動を数えて
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