落穴と振子
THE PIT AND THE PENDULUM
エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe
佐々木直次郎訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呪文《じゅもん》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから9字下げ、ページの左右中央に]

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)通常 〔autos−da−fe'〕(「信仰の行為」)で
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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[#ここから9字下げ、ページの左右中央に]
Impia tortorum longos hic turba furores
Sanguinis innocui, non satiata, aluit.
Sospite nunc patria, fracto nunc funeris antro,
Mors ubi dira fuit vita salusque patent.
「ここにかつて神を恐れざる拷問者の群れ、飽くことなく、
罪なき者の血に、長くそが狂暴の呪文《じゅもん》を育《はぐく》みぬ。
今や国土やすらかに、恐怖の洞穴はうちこわされ、
恐ろしき死のありしところ、生命と平安と現われたり」
[#ここから10字下げ]
〔パリのジャコバン倶楽部の遺趾《いし》に建てらるべき市場の門扉にしるすために作られた四行詩〕
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

 私は弱っていた、――あの長いあいだの苦痛のために、死にそうなくらいひどく弱っていた。そして彼らがやっと私の縛《いまし》めを解いて、坐ることを許してくれたときには、もう知覚が失われるのを感じた。宣告――恐ろしい死刑の宣告――が私の耳にとどいた最後のはっきりした言葉であった。それからのちは、宗教裁判(1)官たちの声が、なにか夢のような、はっきりしない、がやがやという音のなかに呑みこまれてしまうように思われた。それは私の心に回転[#「回転」に傍点]という観念を伝えた。――たぶん、水車の輪のぎいぎいまわる音を連想したからであったろう。それもほんのちょっとのあいだであった、やがてもう私にはなにも聞えなくなったから。しかし少しのあいだはまだ、私には眼が
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