た。それから把手《とって》を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]す音が聞え、あの盲人めが入ろうとするのであろう、閂ががたがたいうのが聞えた。それから永い間、内も外もひっそりしていた。とうとう、また、こつ、こつと杖の音がし始めて、ゆっくりと再び微かになってゆき、ついに聞えなくなったので、私たちは言うに言われぬくらい喜び、また有難く思った。
「お母さん、みんな持って逃げて行きましょうよ。」と私が言った。きっと、扉に閂がさしてあるのが怪しいと思われて、面倒を惹き起すに違いないと思ったからである。もっとも、その閂をさしておいたことを私がどんなに有難く思ったかは、あの恐しい盲人に逢ったことのない人には到底わからないのであるが?
しかし母は、怖がってはいる癖に、自分の当然受取るべき分より少しでもたくさん取ることを承諾しようとせず、またそれより少いのも頑固に承知しなかった。まだなかなか七時にもならない、と母は言った。母は自分の権利を知っていて、それだけを得たいというのだ。そしてなおも私と言い争っていた時に、小さな低い呼子《よびこ》の音が丘の大分離れた処で鳴った。二人ともそれを聞けば十分だった
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