あるが。その冬はひどく寒くて、永い間|厳《きび》しい霜が降《お》り、烈しい風が吹いた。そして、可哀そうな父が春まで持ち越しそうにもないことは、初めからよくわかっていた。父は日毎に衰弱してゆき、母と私とは宿屋のことを何から何まで切り※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]していて、ずっととても忙しくて、例の厭な客人には大して構わずにいた。
一月の或る朝、ごく早い頃のことであった。――刺すような酷寒の朝で、――入江は一面に霜で真白になっており、漣《さざなみ》は静かに磯の石ころを洗い、太陽はまだ低くて、丘の頂《いただき》に射《さ》し、遠く海の方を照しているだけだった。船長はいつもより早く起きて、浜を下って行った。古びた青色の上衣の広い裾の下に彎刀《カトラス》(註一三)をぶら下げ、小脇に真鍮の望遠鏡を抱え、帽子を阿弥陀にかぶっていた。私は覚えているが、彼が大胯《おおまた》に歩いてゆくにつれてその後に彼の息が煙のように残っていた。そして彼が大きな岩角を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]った時に私の聞いた最後の音は、怒ったような大きな荒い鼻息で、それはちょうど心ではまだリヴジー先生のこ
前へ
次へ
全412ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング