つけたようなかすり痕が一つ残っているだけである。
 それがその夜の事件の結末であった。その後間もなく、酒がみんなにぐるりと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]されて、私たちは寝ることになった。そしてシルヴァーの復讐は、高々、ジョージ・メリーを歩哨に立たせて、もし誠実にやらないと殺してしまうぞと嚇したことだけだった。
 私は永い間眼を閉じることが出来なかった。確かに私には考えることがたくさんあったのである。その日の午後自分が殺した男のことや、自分の非常に危険な立場のことや、とりわけ、シルヴァーの今やって見せた素晴しい芸当――片手では謀叛人どもをくっつけておき、もう一方の手では、出来るものでも出来ないものでもありとあらゆる手段によって、和解をして自分のみじめな命を救おうと努める――のことなどについてである。そのシルヴァー自身は安らかに眠って、高い鼾《いびき》をかいていた。それでも、彼を取巻いている暗澹たる危難や、彼を待っている恥ずべき絞首台のことを考えると、彼が悪人ではあっても、私の胸は彼のために痛むのであった。

     第三十章 宣誓解放

 森の縁から呼びかける、はっきりした、力強い声で、私は目を覚された。――実際、私たちみんなが目を覚されたのだ。歩哨でさえも、戸口の柱に凭《もた》れていたのを身を起して、睡気ざましに体をゆすっているのが見えたから。――
「おうい、丸太小屋あ!」とその声は叫んだ。「医者が来たぞ。」
 まさしくそれは医師であった。その声を聞くと私は嬉しかったが、それでもその嬉しさには夾雑物《まざりもの》がないではなかった。私は自分の不従順なこそこそした行為を思い出してどぎまぎした。そして、その行為のために自分がどんなことになったか――どんな連中の間にいてどんな危険に取巻かれているか――ということを思うと、面目なくて先生に顔が合されなかった。
 夜がまだすっかり明けきっていなかったから、先生は暗い中に起きて来たのに相違ない。私が銃眼のところへ駆け寄って外を見ると、先生は、この前一度シルヴァーが来た時のように、地を這っている靄《もや》に膝のところまでも包まれて立っているのが見えた。
「やあ、先生! お早うごぜえまあす!」とシルヴァーは、すぐにすっかり目を覚して好人物らしいにこにこ顔をしながら、叫んだ。「ずいぶんとお早《はえ》えんですねえ、まったく
前へ 次へ
全206ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング