私は船首の方へ這って行って下を覗いた。よほど浅いようだったので、まさかの時の用心にあの切れている錨索に両手で掴まって、そうっと船の外へ体を下して行った。水は私の腰までもなかった。砂は固くて、漣の痕が一面についていた。それで、大檣帆を湾の水面に広く曳きずって、傾いているヒスパニオーラ号を後に残して、私は大元気で岸まで徒渉した。ほとんど同時に太陽はまったく沈み、風は揺れ動いている松林の間で薄暮の中を低くひゅうひゅうと鳴っていた。
ともかく、とうとう、私は海から上ったし、また空手《からて》で戻って来たのでもなかった。あそこに、ヒスパニオーラ号が、とうとう海賊どもの手からすっかり離れて、いつでも味方の人々を乗せて再び海に出られるようになっているのだ。私は何よりも柵壁へ帰りついて自分の手柄話をしたくてたまらなかった。あるいは私は自分のやった隠れ遊びについてちょっとぐらい叱られるかも知れない。がヒスパニオーラ号を取戻したことはそういう文句をすっかり決着させてしまうだけの答になるのだ。そして私はスモレット船長でも私がただ暇潰しをしていたのではないと言ってくれるだろうと思った。
そんなことを思いながら、素敵な元気で、丸太小屋の味方の人たちの方へ戻りかけた。ふと、キッド船長の碇泊所へ注いでいる川の中の一番東にあるのが自分の左手にある二つ峯の山から流れ出ていることを思い出したので、川幅が狭い間に流れを渡っておこうと思って、その方向へ進路を曲げた。森はかなり開けていて、低い方の山嘴に沿うて行くと、やがてその山の角を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ってしまい、それから間もなくその川を脛の半ばまで水に入って渉った。
渉ってしまうと、私があの置去り人《びと》のベン・ガンに出会った処の近くへ来た。それで眼を四方へ配りながら、一層用心して歩いた。もうほとんど薄暗くなっていて、私が二つの峯の間の割目が開けている処まで来ると、一条のゆらゆらした火の光が空に映えているのに気がついた。そこにはあの島の男が盛んに火を燃して夕食の料理をしているのだろう、と私は考えた。しかし、どうして彼がそんなに不注意に自分の居所を示しているのかと、心の中で不審に思った。というのは、あの光が私に見えるくらいだから、海岸の沼地に野営しているシルヴァーの眼に入らない訳がなかったからである。
だんだんと夜はますます
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