なところにいようとは彼が思いもよらぬということは私にはわかっていた。しかしそれでも私は出来る限りの用心をした。すると、確かに、私の最悪の疑いがまったくほんとうであるということがわかったのであった。
彼は両手と両膝とで自分のいた場所から体を上げていた。そして、動く度に脚がかなりぴりぴり痛むようではあったが、――呻き声を抑え隠すのが私に聞き取れたから、――それでも、かなりの速さで甲板を横切って身を曳きずって行った。半|分《ぶん》ほどのうちに彼は左舷の排水孔のところへ行って、一巻きの綱の中から、柄までも血塗れになっている長いナイフ、というよりもむしろ短剣を取り出した。下顎を突き出しながら、ちょっとの間それを見て、切先《きっさき》を手にあてて試《ため》してから、ジャケツの懐の中へ急いで隠すと、また元の場所へ戻って舷牆に凭《もた》れかかった。
これだけわかれば十分だった。イズレールは動き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ることが出来る。彼は今では武器を持っている。で、もし私を遠ざけるために彼がさっきあれほど骨折ったのなら、私を殺すつもりなのだということは明かだった。その後に彼がどうするつもりなのかということは、――北浦からあの湿地の間にある野営《キャムプ》までまっすぐに島を横切って這って行こうとするつもりなのか、それとも、大砲を発射して、自分の方の仲間の者が先に助けに来てくれるのを頼みにするつもりなのかということは、無論私にはわからないことだったが。
しかしながら、私は彼を一つの点で信頼することが出来ると確信した。というのは、その点で私たちの利害が一致していたからだ。それはこのスクーナー船の処置ということである。私たちは二人とも、船をどこかの避難所へ十分安全に乗り上げさせて、時機の来た時には、なるべく骨も折らず危険もなしに再び海へ出られるようにしておきたい、と望んでいるのだ。それで、それをやってしまうまでは自分の命は確かに助けておかれるだろうと私は考えた。
このように心の中でいろいろと考えている間も、私は体を遊ばせてはいなかった。そっと船室へ戻って、また靴を穿き、手当り次第に葡萄酒の罎《びん》を一本掴むと、それを申訳の理由に持って、再び甲板に出て行った。
ハンズは私が降りて行った時のようにしていて、すっかり体を丸めて、光にも堪えられないほど衰弱しているとでも
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