かっていて、頤を胸につけ、両手は前へ投げて甲板に投げ出し、顔は、日に焦《や》けた表皮の下が、脂蝋燭のように蒼白かった。
しばらくの間は船は悍馬のように跳びはねたり横へ動いたりし、帆は今左舷に風を受けて膨らんだかと思うと、次には右舷からの風で膨らみ、帆の下桁があちこちと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]るので、そのために檣《マスト》がぎいぎいと高い音を立てた。それにまた、時々は、舷牆を越えてぱあっと水煙が飛んで来たり、船首をうねり波に猛烈にぶっつけたりした。今はもう海の底へ沈んでしまった、あの手製の一方に偏った革舟《コラクル》よりも、この艤装した大きな船の方がずっとひどく揺れるのだった。
スクーナー船が跳び上る度に、赤帽の男はあちこちと滑り動いた。しかし、――見ていて物凄いことには、――彼の姿勢も、歯を露わしたにやにや笑いの表情も、そういう手荒い取扱いを受けても、少しも変らないのであった。また、船が跳び上る度に、ハンズの方はだんだんに一層|体《からだ》を沈めて甲板へずり下ってゆくようで、両脚は絶えず前へ滑り出し、体全体が船尾の方へ傾いてゆくので、その顔は、だんだんと私に見えないようになり、とうとう、片耳と、一方の頬髯の擦り切れた捲毛だけしか、見えなくなってしまった。
同時に、私は、二人ともの周りに、甲板の板にどす黒い血のはねかった痕を認めたので、彼等が酔った怒りにまかせて互に殺し合ったのに違いないと思いかけて来た。
私がこうして眺めて不審に思っている間に、静かな瞬間、船がじっとしている時に、イズレール・ハンズは少し向き直って、低い呻き声を出しながら、身を捩って私の最初に見た時の位置に戻った。その呻き声は苦痛と死ぬほどの衰弱とを語っていて、呻く時の顎をだらりと開けた様子は私の心に哀れを催させた。しかし、林檎樽で窃《ぬす》み聞きした話を思い出すと、憐みの情はすっかりなくなった。
私は船尾の方へ歩いて行って、大檣《メーンマスト》のところまで行った。
「来たよ、ハンズさん。」と私は皮肉に言った。
彼は大儀そうに眼玉を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。が、余りにひどく弱っていて驚きを言い現すことも出来なかった。出来たのは一|言《こと》「ブランディーを。」と言うことだけだった。
これはもうぐずぐずしていてはならぬと私は思った。で、また甲板を横切
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