して、それよりは都合がよさそうに見える森の岬に上陸を企てるために体力を使わずに貯えておくことにしよう、と考えたのである。
 海には大きな滑《なめら》かなうねりがあった。風は南からむらなくそよそよと吹いていたので、風と潮流とには喰違いがなく、大浪はぐうっと高まってはまた砕けずに下って行った。
 もしそうでなかったなら、私はとっくに命を失っていたに違いない。ところが、そういう訳だったから、私の小さな軽いボートが易々《やすやす》と安全に波に乗ってゆく有様は驚くべきものだった。私が舟の底にじっと横っていて、ただ片眼だけを舟縁の上へやっていると、幾度も、大きな青い波の頂上が私のすぐ上にぐうっと高く上るのが見えた。それでも革舟《コラクル》はただちょっと跳ね上って、弾機《ばね》仕掛のように踊り、鳥のように軽々《かるがる》と向側の波窪へ降りてゆくのであった。
 少したつと私はずいぶん大胆になり出して、自分の櫂を漕ぐ手並を試《ため》してみようと起き上った。しかし、重さの按排が少し変っただけでも、革舟の動作には甚しい変化が生ずるのだった。そして私が動くか動かないに、ボートは、今までの穏かな踊るような運動は直ちにやめて、眩暈《めまい》がするほどの嶮《けわ》しい水の斜面をまっすぐに走り下って、次の波の横腹へぱっと水煙《みづけむり》をあげながら舳《へさき》を深く突っ込んだ。
 私はびしょ濡れになって度胆を抜かれ、すぐさま元の位置に返った。すると革舟は再び落着いたようで、私を前のようにふわふわと大浪の間を運んでくれた。この舟には手出しをしてはならぬということは明かだった。で、自分にはこの舟の針路を左右することは毫も出来ないのだから、この分では、私には陸へ着けるどんな望みが残されているだろうか?
 私は非常に怖《こわ》くなって来たが、それでも心を乱さずにいた。先ず第一に、十分に用心して体を動かしながら、自分の航海帽で少しずつ革舟の淦《あか》(註六九)をかい出した。それから、もう一度眼を舟縁の上へやりながら、どうしてこの舟がこんなに静かに大狼を滑り抜けてゆくのかということを研究しにかかった。
 すると、どの波も、海岸や船の甲板から見えるような、大きな、滑かな、つやつやした山ではなくて、まさしく、陸上の山脈のように嶺や平坦な処や谷間がたくさんあるものだ、ということがわかった。革舟は、なすがままにさせ
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