はその危険な隣人から免れた。そして最後に革舟をぐっと推進させたちょうどその時に、私の手がふと船尾の船牆を越えて水中に垂れ下っている一本の軽い索にあたった。と、即座に私はそれを掴んだ。
 どうしてそんなことをしたのか自分でもほとんどわからない。初めはただ本能だったのだ。が、一度それを手に握って、それがしっかりしているのがわかると、好奇心がむらむらっと湧き起って来て、船室の窓からちょっと覗いてやろうと決心した。
 私はその索を手繰《たぐ》って引き寄せ、もう十分近づいたと思った頃に、非常な危険を冒して自分の半身ほど立ち上り、そうして船室の天井と室内の一部とを見渡した。
 この時分には、スクーナー船とそれの小さな伴船《ともぶね》とはかなり速く水を分けてすうっと流れていた。実際、私たちはすでに野営の焚火と平行になるところまでも来ていた。船は絶えず水沫を跳ばしながら無数の漣を押し切って進み、ざあざあ大きな音を立てていた。それで、窓閾《まどしきい》の上へ眼をやるまでは、私はなぜあの番人どもが一向驚かないのか合点がゆかなかったのだ。だが、一目見ると十分だった。また、そのぐらぐらしている小舟からは、一目だけしか見られなかった。その一目で、ハンズと彼の仲間の男とが絡み合って猛烈な組打をやっており、互に相手の喉頸《のどくび》をひっ掴んでいるのが見えたのである。
 私は再び腰掛梁にどかんと腰を下した。ちょうどよい時だった。すんでのことに舟から水中へ落ちるところであった。しばらくの間は、私には、煙ったランプの下で一緒にゆらいでいたあの狂暴な真赤になった二つの顔の他には、何一つも見えなかった。それで私は眼を閉じて、もう一度眼を闇に慣らそうとした。
 例の果しのない唄もとうとう終って、野営の焚火を囲んでいる人数の減った仲間全体は、私のたびたび聞いたあの合唱をやり出していた。――

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「死人箱《しびとのはこ》にゃあ十五人――
  よいこらさあ、それからラムが一罎《ひとびん》と!
 残りの奴は酒と悪魔が片附けた――
  よいこらさあ、それからラムが一罎と!」
[#ここで字下げ終わり]

 ちょうど私が、酒と悪魔とが正にその瞬間にヒスパニオーラ号の船室でどんなに活躍しているかを考えていた時に、急に革舟がぐっと傾いたのに驚かされた。同時にそれはぐらぐらとして、それから針路を変えたよ
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