き、両手で頭を支えながら、砂の中の古い鉄の釜からぶくぶくと湧いている水をじっと見ていた。彼は「いざ、乙女《おとめ》よ、若人《わこうど》よ。(註六五)」と口笛を吹いていた。
シルヴァーは丘を登って来るのに恐しく骨を折った。傾斜は嶮《けわ》しいし、木の切株はたくさんあるし、砂地は柔かいと来ているので、※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖を持った彼は方向を換えようとしている帆船のように体が自由に利かないのであった。しかし彼は黙々として男らしくそれをやり通し、とうとう船長の前まで来て、見事な態度で船長に挨拶した。彼は晴着を着飾っていた。真鍮のボタンのたくさんついている素敵に大きな青色の上衣は膝まで垂れており、綺麗なモールで飾った帽子は阿弥陀に頭にのっかっていた。
「おお、来たな。」と船長は顔を上げながら言った。「坐ったがよかろう。」
「内へ入れてくれねえんですかい、船長?」とのっぽのジョンは不平を言った。「ほんとに、えらく寒い朝だから、外の砂の上に坐るなんてつれえですねえ。」
「そうさなあ、シルヴァー、」と船長が言った。「もし貴様が実直にさえしていたなら、今頃は船の炊事室に坐っていられたんだろうがな。それは自業自得さ。お前は、己の船の料理番《コック》であるか、――それなら立派な待遇を受けるんだが、――それとも、くだらん謀叛人で海賊のシルヴァー船長であるかだ。その方なら絞首《しめくび》になるがいいや!」
「ようがす、ようがす、船長。」と船の料理番《コック》は、命ぜられた通り砂地に腰を下しながら、答えた。「あんたは後でまたわっしに手を貸して立たしてくれなくちゃならんでしょうからな。それだけのことでさ。これぁなかなか気持のいい立派な処《とこ》にお出でですなあ。やあ、ジムがいるね! お早う、ジム。先生、御機嫌よう。これはこれは、皆さん方《がた》は言わば仕合せな一家族みてえに御一緒にお出ででごぜえますな。」
「おい、何か言うことがあるなら、言った方がいいぜ。」と船長が言った。
「御もっともで、スモレット船長。」とシルヴァーが答えた。「いかにも、義務は義務ですからね。じゃあ、申しますがね、昨晩《ゆうべ》のあれはあんた方はうめえことをおやんなすったもんですなあ。確かに、うめえことでしたよ。それぁわっしも隠しやしません。あんた方の中にゃ木挺を[#「木挺を」はママ]ずいぶ器
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