距離以内に来ないうちに、吾々は少くとも六人はやっつけることが出来るつもりだった。
 大地主は船尾の窓のところで私を待っていた。さっきの気の遠くなったような様子はすっかりなくなっていた。彼は繋艇索を掴んでそれを結びつけ、それから吾々二人は命がけでボートに荷を積み込み始めた。積荷は豚肉と火薬と堅パンで、それに、大地主と私とレッドルースと船長とに銘々ただ銃が二挺ずっと彎刀《カトラス》が一本ずつだった。残りの武器と火薬とは二尋半の水の中へ投げ込んだ。それで、そのぴかぴかした鋼鉄の刃物などがずっと下に綺麗な砂の底で太陽に輝いているのが見えた。
 この時分には潮が退《ひ》き始めていたので、船は錨の周りをぐるぐる動いていた。例の二艘の快艇の方角で微かにおういと呼ぶ声が聞えた。ジョイスとハンターとはそれとはずっと東の方にいるので、二人のことはそれで安心出来たけれども、その声は吾々の一行に早く出かけなければならないことを警告した。
 レッドルースは廊下の彼の場所を引揚げて、ボートの中へ跳び下りた。そこで吾々はスモレット船長に便利なようにとボートを船の船尾張出部《カウンター》のところへ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。
「おい、お前ら、」と船長が言った。「私の言うことが聞えるか?」
 水夫部屋からは何の返事もなかった。
「お前にだ、エーブラハム・グレー、――お前に私は口を利いているのだぞ。」
 それでも答がない。
「グレー、」とスモレット氏は少し声高に再び言い始めた。「私はこの船を立退《たちの》くところだ。で、お前に船長について来いと命令する。お前が心底《しんそこ》は善人だということは私は知っている。また、恐らく、お前たちみんなの中の一人だって悪党ぶっているほどの悪党じゃあないのだ。私はここに時計を手に持っている。私のところへ来るのにお前に三十秒だけ余裕を与えてやる。」
 しばらく間があった。
「さあ、お前、」と船長が言葉を続けた。「そんなに永くぐずぐずしていちゃいかん。私は一秒一秒自分の命もここにいられる方々《かたがた》の命も危険に曝《さら》しているのだ。」
 突然格闘が始まり、打合いの音がしたかと思うと、片頬にナイフの傷を受けたエーブラハム・グレーが躍り出て来て、口笛で呼ばれた犬のように、船長のところへ走って来た。
「来ましたよ、船長。」と彼は言った。
 そして次の瞬
前へ 次へ
全206ページ中92ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング