は、一聯隊の敵に対してもその場所を守ることが出来たかも知れなかった。
私に特に気に入ったのは、泉であった。吾々はヒスパニオーラ号の船室に十分よい場所を占めていて、武器と弾薬も、食べる物も、種々の上等の酒も豊富にあったけれども、一つだけ手抜りがあった。――水がなかったのである。私がそのことを考えている時、断末魔の人間の悲鳴が島中に響きわたった。私は非業の死はこれが初めてではない。――かつてカムバランド公爵(註五九)閣下に仕えていたことがあり、フオンテノイ(註六〇)では自分も負傷したことがある。――が、この時は心臓がどきんとした。「ジム・ホーキンズがやられた。」と真先に思ったのである。
昔軍人だったということは有難いことであるが、しかし医者であるということはなおさらである。もう一刻もぐずぐずしてはいられない。そこで私は直ちに決心をし、時を移さず海岸へ引返して、小形端艇に跳び乗った。
好運にもハンターは上手な漕手だった。吾々のボートは水を切って進み、間もなく横附けになったので、私はスクーナー船に上って行った。
みんなは、当然のことながら、すっかりどぎまぎしていた。大地主は敷布《シーツ》のように蒼白な顔をして坐っていて、自分がみんなをこんな災難に陥れたことを考えていた。善良な人だ! 六人の前甲板の水夫の中の一人も大地主と同じくらいの顔色をしていた。
「こんなことには初めての男が一人いますよ。」とスモレット船長は、その男の方へ頭を動かしながら、言った。「彼《あれ》はあの悲鳴を聞いた時には、今少しで気絶しそうでしたよ、先生。ちょっと舵を動かしてやれば、あの男は我々の味方になりましょう。」
私は自分の計画を船長に話した。そしてそれを実行する細かい手筈《てはず》を二人で決定した。
吾々は、レッドルース老人に装弾した銃を三四挺と身を護るための敷蒲団《マットレス》を一枚与えて、船室と前甲板下水夫部屋《フォークスル》との間の廊下に立たせた。ハンターはボートを船尾窓の下に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]し、ジョイスと私とはそのボートに火薬の鑵や、銃や、堅《かた》パンの嚢や、豚肉の小樽や、コニャックの樽や、私には何より大事な薬箱などを積み込み始めた。
その間に、大地主と船長とは甲板に留《とど》まり、船長は舵手《コクスン》に声をかけた。船に残っている者の中の頭立《かしら
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