かくしてこの小説はすでに最初から少年のみならず成人あるいは老人をも読者に有したと言い得るかも知れない。トマスは熱心な聴き手となって、作中のビリー・ボーンズの衣類箱が探される時にはその中にある種々の品物を挙げ、またフリントの船の名を「海象《ウオルラス》号」とつけたのも彼であった。こうして初めの十五章が書き上げられたが、当時は作の表題は「船の料理番《コック》」であった。それによっても察せられるように、本篇における最も重要な人物はヒスパニオーラ号の料理番として現れるジョン・シルヴァーなのである。スティーヴンスンは毎夕食後家族のためにこの物語を読み続けていたが、偶々アレグザーンダー・ジャップという人が訪れてその仲間に入り、この話にはなはだ興味を感じて、帰る時に最初の数章の原稿を持ち去り、それを友人である少年新聞「ヤング・フォークス紙」の編輯者ジェームズ・ヘンダスンに送った。間もなくこの作は同紙上に連載され始めた。題名を「宝島」と改めたのはヘンダスンである。しかし、第十五章の次で作者は恐らく行詰りを感じたのであろう、一度執筆を放棄したが、その冬を越すためにスウィスの保養地ダーヴォスに赴いてから、
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