再びこの作のペンを執り上げ、物語の書き手を主人公ジム・ホーキンズから一時的に医師リヴジーに移して書き継ぎ、逐に最後の章まで完成させた。「ヤング・フォークス紙」には一八八一年の十月上旬から翌年の一月下旬までにわたって掲載され、その発表当時には批評家の注目をも惹かず、世評にも上らなかったが、一八八三年十二月に単行本として出版されるに至って、世人に歓喜をもって迎えられ、啻《ただ》に少年のみならず、政治家、法律家などに至るまでも耽読されたと言われ、スティーヴンスンの名声を初めて高めたのであった。それ以来今日まで引続いて広く読まれていると共に、また文学史上においても確乎たる古典的地位を贏《か》ち得ているのである。
「宝島」は洵《まこと》に少年文学であると同時に成人をも十分に愉しませ得る小説であり、大衆文学であると同時に文学に対して最も優れた理解力と鑑賞力とを有する人々にも愛読され得る作品である。この作が凡百の軽文学を遥かに抜いているのは、全篇の構成から措辞の末に至るまでに滲透している作者の芸術的感覚と手腕とによってであろう。スティーヴンスンがイギリス文学中有数の文章家《スタイリスト》であることは已に人の知るところであるが、本篇における彼の小説的技術もまた極めて高度のものであることは認めざるを得ない。ただ、第十六章から三章だけの書き手が異っていることは全体としては幾分の技術的欠陥とも言い得られぬではない。しかし、それらの章もそれ自身としては完全な効果を収めており、また通読に際して不自然ないしは不調和の感をほとんど与えない。この作にあってはスティーヴンスンの作家的短所は影を潜め、長所は遺憾なく発揮されている。事件、情景等の叙述、描写の比類少き巧みさは、恐らくすべての読者の直ちに気づくところであろう。全篇にわたって、脳裡に残る傑れた場面はかなり多くを挙げることが出来る。あるいは、全三十四章が印象的な場面のほとんど連続である。しかも、少年ジム・ホーキンズ、その母、老海賊ビリー・ボーンズ、医師リヴジー、海賊|黒犬《ブラック・ドッグ》、盲人ピュー、大地主トゥリローニー、船長スモレット、島の男ベン・ガン、舵手イズレール・ハンズ、船員ディック・ジョンソン、その他作中諸人物は各それぞれの明確さと自然さとをもって描かれているが、特に評家の最も讃歎するのは、隻脚の海賊ジョン・シルヴァーの性格創造で
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