激賞し、作者自身もその完成の少し前に本篇を「自分のこれまでに書いた最上の物語」として期待したが、作家が最近の労作を自己の最上の作と考えやすい傾向などをも考慮に入れても、要するに、この「二都物語」が、ディッケンズの代表作とは遠いものであるにせよ、単に彼の力作たるに止まらず、少くとも「デーヴィッド・コッパフィールド」その他と共にこの民衆の作家、小説文学の巨匠の最高傑作の一であり、かつ世界の文学における傑れた一名作であることは、何等の疑いもあり得ない。
物語は全三巻から成る。第一巻は、一七七五年の秋から冬へかけての数日間のことを取扱い、この物語全曲に対する短い静かな序曲に過ぎない。第二巻は、一七八〇年の三月からフランス革命勃発の三年後すなわち一七九二年の八月に至るまでの十二年間余にわたり、最も変化に富む展開部に当る。第三巻は、一七九二年秋から翌九三年暮までの一年数箇月間、革命の真最中のことであり、荒れ狂う終曲であると共に、全曲の最高潮《クライマクス》である。
第三巻中の医師マネットの手記によって物語の発端は遠く一七五七年まで遡り、更に第三巻の結末にはシドニー・カートンのそれから数十年後の
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