《かた》のために部屋を用意しておいてもらいたい。その御婦人はジャーヴィス・ロリーさんはいないかと言って尋ねられるかもしれないし、それとも、ただ、テルソン銀行から来たお方はいないかと尋ねられるかもしれない。そしたらどうか知らせて下さい。」
「は、畏りました。ロンドンのテルソン銀行でございますね、旦那?」
「そうだ。」
「は、承知いたしました。手前どもでは、あなたさまのところの方々《かたがた》がロンドンとパリーの間を往ったり来たりして御旅行なさいます時に、たびたび御贔屓にあずかっております、はい。テルソン銀行では、旦那、ずいぶん御旅行をなさいますようで。」
「そうだよ。わたしどもの銀行は、イギリスの銀行であると同じくらいに、全くフランスの銀行ででもあるようなものだからね。」
「は、なるほど。でも、旦那、あなたさまはあまりそういう御旅行はしつけてお出でになりませんようでございますが?」
「近年はやらない。わたしどもが――いや、わたしが――この前フランスから戻ってから十五年になるよ。」
「へえ、さようでございますか? それでは手前がここへ参りましたより以前のことでございますよ、はい。ここの人た
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