っくるめて、かつてその三倍の時間に支払ったことのあるよりも以上に多額の、為替手形が支払われた。それから今度は、テルソン銀行の地下の貴重品室が、その乗客の知っているような高価な品物や秘密物を納めたまま(そしてそれらの物について彼の知っていることは少くはなかったのだ)、彼の前に開かれた。そして、彼は大きな幾つもの鍵と微かに弱々しく燃えている蝋燭とを持ってその中へ入って行った。すると、その品々は、彼が最後に見た時とちょうど同じに安全で、堅固で、無事で、平静であることがわかった。
しかし、銀行がほとんど絶えず彼と共にあったけれども、また馬車も(阿片剤を飲んだための苦痛があるように、混乱したのにではあるが)絶えず彼と共にあったけれども、その夜|中《じゅう》流れて止《や》まなかったもう一つの印象の流れがあった。彼はある人を墓穴から掘り出しに行く途中なのであった。
ところで、彼の前に現れる多数の顔の中のどれが、その埋葬されている人のほんとうの顔なのか、夜の影は示してくれなかった。だが、それらはどれもこれも年齢四十五歳の男の顔であって、主として異っているのは、その表《あらわ》している感情と、その瘠
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