―! うん、旦那は一杯飲んで酔っ払ってたに違《ちげ》えねえや!」
あの伝言《ことづて》は彼の心をひどく悩ませたので、彼は何度も帽子を脱いで頭をがりがり掻くより他《ほか》に仕方がないくらいであった。ぱらぱらと禿げている脳天を除いては、硬《こわ》い黒い髪の毛がその頭一面にぎざぎざと突っ立っていて、ほとんど彼の団子鼻のあたりまでも生え下っていた。その頭は鍛冶屋の作った物のようであった。髪の生えた頭というよりは、堅固に忍返《しのびがえ》し★を打ちつけてある塀の頂に似ていた。だから、蛙跳び★の一番の名人でも、跳び越すのにこれほど危険な男は世の中にもいないと言って、彼を跳び越すことは断《ことわ》ったかもしれなかった。
彼がテムプル関門《バー》の傍のテルソン銀行の戸口のところにある番小屋の中の夜番人に渡し、その夜番人がまたそれを中にいる上役たちに渡すことになっているはずの、あの伝言《ことづて》を持って、馬を早足で歩ませながら引返している間、夜の影は、彼にとっては、その伝言《ことづて》から生じたような形をしているように見え、その牝馬にとっては、その馬[#「その馬」に傍点]だけにしかわからないいろい
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