《ひざまず》かなかったからといって、その青年の両手を切り取り、舌を釘抜《くぎぬき》で引き抜き、体を生きながら焼くように、宣告したりするような慈悲深い仕事をして楽しんでいた。その受難者が死刑に処せられた時に、フランスやノルウェーの森林には、歴史上にも怖しい、嚢と刃物との附いているある動かし得る枠細工★を作るために、伐り倒されて板に挽かれるようにと、運命という樵夫《きこり》が既に印《しるし》をつけておいた樹木が、生い繁っていたのであろう。また、その日には、死という農夫がかの大革命の時の自分の死刑囚護送馬車にするために既に取除けておいた粗末な荷車が、パリー近隣のねとねとした土地を耕している百姓たちのむさくるしい納屋の中に、田野の泥にまみれ、豚に嗅ぎ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]され、禽《とり》どもに塒《とや》にされて、雨露を防いでいたのであろう。しかし、その樵夫《きこり》とその農夫とは、絶えず働いてはいるけれども、黙々として働いているのである。それで、彼等が跫音《あしおと》を忍ばせながら歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っているのを、誰一人として聞きつけはしなかった。
前へ
次へ
全341ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング