の馬鹿げた籠の中に誰でもに対するどんな助けになるものでも持っているかのように!
「――そのために、あたくしがパリーへ参って、あちらで、その御用のためにわざわざパリーまでお出で下さる銀行のお方とお打合せをしなければならない、と書いてございましたのですが。」
「その人間というのがわたしで。」
「そう承るだろうと存じておりました。」
彼女は、彼が自分などよりはずっとずっと経験もあり智慮もある方《かた》だと自分が思っているということを、彼に伝えたいという可憐な願いをこめて、彼に対して膝を屈めて礼をした(当時は若い淑女は膝を屈める礼をしたものである)。彼の方ももう一度彼女にお辞儀をした。
「あたくしは銀行へこう御返事いたしました。あたくしのことを知っていて下すって、御親切にいろいろあたくしに教えて下さる方々《かたがた》が、あたくしがフランスへ参らなければならないとお考えになるのですし、それに、あたくしは孤児《みなしご》で、御一緒に行って頂けるようなお友達もございませんのですから、旅行の間、そのお方さまのお世話になれますなら、大変有難いのでございますが、と申し上げましたのでございます。そのお方はもうロンドンをお立ちになってしまっていらっしゃいましたが、でも、そのお方にここであたくしをお待ち下さるようにお願いしますために、その方《かた》の後《あと》から使いの人を出して下すったことと存じます。」
「わたしはそのお役目を任されましたことを嬉しく思っておりました。それを果すことが出来ますればもっと嬉しいことでございましょう。」とロリー氏が言った。
「ほんとに有難うございます。有難くお礼を申し上げます。銀行からのお話では、その方《かた》が用事の詳しいことをあたくしに御説明して下さいますはずで、それがびっくりするような事柄なのだから、その覚悟をしていなければならない、とのことでございました。あたくしはもう十分その覚悟をいたしておりますので、あたくしとしましてはどんなお話なのか知りたくて知りたくてたまらないのでございますが。」
「御もっとも。」とロリー氏は言った。「さよう、――わたしは――」
ちょっと言葉を切ってから、彼はまた例の縮れた亜麻色の仮髪《かつら》を耳のところで抑えつけながら、こう言い足した。――
「どうも言い出すのが大変むずかしいことなのでして。」
彼が言い出さずに、躊躇し
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