った。「昔の通りの|ぎいこばったん《シーソー》のシドニーだね。今上っているかと思えばもう下っている。今元気かと思えばもうしょげてる!」
「ああ、ああ!」と相手は溜息をつきながら答えた。「そうだよ! 相も変らぬ運《めぐ》り合《あわ》せの、相も変らぬシドニーさ。あの頃でさえ、おれは他《ほか》の子供たちに宿題をしてやって、自分のは滅多にやらなかったものだ。」
「なぜやらなかったんだい?」
「なぜだかわかるものか。おれの流儀だったんだろうよ。」
 彼は、両手をポケットに突っ込み両脚を前にぐっと伸ばしたまま、炉火を眺めながら、腰掛けていた。
「カートン、」と彼の友人は、あたかも炉側格子はその中で不屈の努力が鍛えられる熔鉱炉であって、昔のシュルーズベリー学校時代の昔の通りのシドニー・カートンのためにしてやれる唯一の思遣りのある仕打は彼をその熔鉱炉の中へ肩で押し込んでやることであるかのように、威張り散らすような風で彼に向って肩肱を張って、言った。「君の流儀はなっていない流儀だし、いつだってそうだったんだ。君は気力でも意思でも奮い起すってことがない。僕を見たまえ。」
「おやおや、これあたまらん!」とシドニーは、今までよりは気軽な機嫌のよい笑い声を立てながら、応答した「君の[#「君の」に傍点]お説教は御免だよ!」
「僕はこれまでやって来たことをどんな風にやって来たかね?」とストライヴァーが言った。「僕は今やっていることをどんな風にやっているかね?」
「僕に給料を払って手伝わせてやってるってとこも少しはあるようだね。だが、僕にそんなことを言ったって、風《かぜ》に言ってるようなもので、無駄だよ。君はやろうと思うことはやる人間だ。君はいつだって最前列にいたんだし、僕はいつだって後の方にいたんだ。」
「僕が最前列へ出るには出るようにしなければならなかったんだ。僕だって最前列に生れついたんじゃないよ。そうだろう?」
「僕は君の誕生の儀式に立会ったんじゃないさ。だが、どうも僕の思うところじゃ君はそこに生れついたらしいな。」とカートンが言った。そう言って、彼はまた声を立てて笑い、それから二人とも一緒に笑った。
「シュルーズベリー時代の前だって、シュルーズベリー時代だって、シュルーズベリー時代から後今までだって、」とカートンは言葉を続けた。「君は君の列に就いていたし、僕は僕の列に就いていたんだ。僕た
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