手前の[#「手前の」に傍点]お祈りに手前《てめえ》のつけてる値段を言ってみろ!」
「わたしのお祈りは心の中から出て来るだけだよ、ジェリー。それより他《ほか》に値打ってありゃしないよ。」
「それより他に値打ってありゃしないだと。」とクランチャー君は繰返して言った。「じゃあ、大《てえ》して値打のねえものなんだな。あったってなくったって、おれあもう祈ってもれえたかねえんだぞ。おれあそんなこたあ我慢が出来ねえ。おれあ手前が[#「手前が」に傍点]こそこそやってそのために不仕合せにされるなんて厭だ。手前《てめえ》がぜひともへえつくばらなけりゃならねえんなら、手前《てめえ》の亭主や子供のためになるようにへえつくばれ。ためにならねえようにやるんじゃねえぞ。もしおれに邪慳《じゃけん》な女房さえなかったならだ、そいからこの可哀《かええ》そうな子供に邪慳なおっ母さえなかったならばだ、おれあ、先週なんざあ、悪いように祈られたり、目論《もくろみ》の裏をかかれたり、信心のために出し抜かれたりして、この上なしの運の悪い目になんぞ遭わねえで、お金《かね》を幾らか儲けてたんだ。ち、ち、畜生め!」とそれまでの間に衣服を著てしまっていたクランチャー君が言った。「あの先週は、神信心だのあれやこれやの呪い事だので、おれあぺてんにかけられて、可哀《かええ》そうな実直な商売人めがこれまで出くわしたことのある中でも一番不仕合せな目に遭ったじゃねえか! おい、ジェリー坊、お前《めえ》著物を著てな、おれが靴を磨いてる間、時々おっ母に気をつけてろよ。そしてまたへえつくばりそうな様子がちょっとでも見えたら、おれを呼ぶんだぜ。てえのはだ、手前《てめえ》、いいかい、」とここで彼はもう一度女房に話しかけて、「おれあまたあんな風にやられたかねえからなんだぞ。おれあ貸馬車みてえに体がぐらぐらしてるし、阿片チンキを飲んだみてえに眠いし、体の筋はあんまり使い過ぎてるんで、もし痛みでもなかろうものなら、どれがおれでどれが他人《ひと》さまだかわかんねえくれえなんだ。それだのにおれの懐《ふところ》工合はそのためにちっともよくはならねえ。で、おれあどうも、手前《てめえ》が朝から晩まであれをやってて、おれの懐工合がよくならねえようにしてるんじゃねえかと思うんだ。おれあそんなことは勘弁がならねえ、この人に迷惑をかける奴め。さあ、手前《てめえ》、何
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