にか堅い物の上に横たわっているのを感じた。そして両側もなにかそれに似たものでぴったりと押しつけられていた。これまでは私は手も足も動かそうとはしなかった、――がこのとき、いままで手首を交差して長々とのばしていた両腕を荒々しく突き上げてみた。すると顔から六インチもない高さの、私の体の上にひろがっている固い木製のものにぶっつかった。私は自分がとうとう棺のなかに横たわっているのだということをもう疑うことができなかった。
 この無限の苦痛のなかへいまや希望の天使がやさしく訪れて来た、――というのは、あの前からの用意のことを思い出したからだ。私は身悶《みもだ》えし、蓋を押し開こうとして痙攣的な動作をした。蓋は動こうともしなかった。ベルの綱を捜して手首にさわってみた。それもなかった。そしてまた天使はもう永久に消え失せて、もっと苛酷な絶望が勝ち誇って君臨した。というのは、前にあれほど用心深く用意して張っておいた褥がないことに気がつかないわけにはゆかなかったからである。それにまたとつぜん湿った土の強い妙な匂いが私の鼻孔をおそってきた。結論はもう疑いない。私はあの墓窖のなかにいるのではない[#「のではない
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