かかっているとはぜんぜん考えることができなかった、――ただ私の普通の睡眠[#「睡眠」に傍点]の特異性がもっとひどくなったものと考えられることをのぞいては。眠りから覚めるとき、私は決してすぐに意識を完全に取りもどすことができなくて、いつも何分間も非常な昏迷と混乱とのなかにとり残されるのであった。――そのあいだ一般の精神機能、ことに記憶が、絶対的中絶の状態にあった。
 私のいろいろ耐えしのんだことのなかで肉体的の苦痛は少しもなかったが、精神的の苦痛となると実に無限であった。私は死に関することばかりを考えた。「蛆虫と、墓と、碑銘」のことを口にした。死の幻想に夢中になって、早すぎる埋葬という考えが絶えず私の頭を支配した。このもの凄《すご》い虞《おそ》れが昼も夜も私を悩ました。昼はそのもの思いの呵責《かしゃく》がひどいものであったし――夜となればこのうえもなかった。恐ろしい暗黒が地上を蔽うと、ものを考えるたびの恐怖のために私は身震いした、――柩車《きゅうしゃ》の上の震える羽毛飾りのように身震いした。このうえ目を覚ましているわけにはゆかなくなると、眠らないでいようともがきながらやっと眠りに落ちた、
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