きなかったのだ。私は骨を折って自分の運命をはっきり知ろうとは無理にしなかった、――しかし心にはたしかにそうだぞ[#「たしかにそうだぞ」に傍点]と私にささやくなにものかがあった。絶望――どんな他の惨めなことも決して起きないような絶望――だけが、だいぶ長くためらった末に、私に重い眼瞼をあけてみることを促した。とうとう眼を開いた。真っ暗――すべて真っ暗であった。私は発作が過ぎ去ったのを知った。病気の峠がずっと前に過ぎ去っていることを知った。私はもう視力の働きを完全に回復していることを知った、――それなのに真っ暗であった、――すべて真っ暗であった、――一条の光さえもない濃い真っ暗な永遠につづく夜であった。
 私は一所懸命に大声を出そうとした。すると唇と乾ききった舌とはそうしようとして痙攣的に一緒に動いた、――がなにか重い山がのしかかったように圧しつけられて、苦しい息をするたびに心臓とともにあえぎ震える空洞《うつろ》の肺臓からは、少しの声も出てこなかった。
 このように大きな声を出そうとして顎《あご》を動かしてみると、ちょうど死人がされているように顎が結わえられていることがわかった。また自分がなにか堅い物の上に横たわっているのを感じた。そして両側もなにかそれに似たものでぴったりと押しつけられていた。これまでは私は手も足も動かそうとはしなかった、――がこのとき、いままで手首を交差して長々とのばしていた両腕を荒々しく突き上げてみた。すると顔から六インチもない高さの、私の体の上にひろがっている固い木製のものにぶっつかった。私は自分がとうとう棺のなかに横たわっているのだということをもう疑うことができなかった。
 この無限の苦痛のなかへいまや希望の天使がやさしく訪れて来た、――というのは、あの前からの用意のことを思い出したからだ。私は身悶《みもだ》えし、蓋を押し開こうとして痙攣的な動作をした。蓋は動こうともしなかった。ベルの綱を捜して手首にさわってみた。それもなかった。そしてまた天使はもう永久に消え失せて、もっと苛酷な絶望が勝ち誇って君臨した。というのは、前にあれほど用心深く用意して張っておいた褥がないことに気がつかないわけにはゆかなかったからである。それにまたとつぜん湿った土の強い妙な匂いが私の鼻孔をおそってきた。結論はもう疑いない。私はあの墓窖のなかにいるのではない[#「のではない
前へ 次へ
全17ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング