あるいは愚かな行為をしていることに、人はどんなにかしばしば気づいたことであろう。人は、掟[#「掟」に傍点]を、単にそれが掟《おきて》であると知っているだけのために、その最善の判断に逆らってまでも、その掟を破ろうとする永続的な性向を、持っていはしないだろうか? この天邪鬼の心持がいま言ったように、私の最後の破滅を来たしたのであった。なんの罪もない動物に対して自分の加えた傷害をなおもつづけさせ、とうとう仕遂げさせるように私をせっついたのは、魂の自らを苦しめようとする[#「自らを苦しめようとする」に傍点]――それ自身の本性に暴虐を加えようとする――悪のためにのみ悪をしようとする、この不可解な切望であったのだ。ある朝、冷然と、私は猫の首に輪索《わなわ》をはめて、一本の木の枝につるした。――眼から涙を流しながら、心に痛切な悔恨を感じながら、つるした。――その猫が私を慕っていたということを知っていればこそ[#「こそ」に傍点]、猫が私を怒らせるようなことはなに一つしなかったということを感じていればこそ[#「こそ」に傍点]、つるしたのだ。――そうすれば自分は罪を犯すのだ、――自分の不滅の魂をいとも慈悲
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