宝石をちりばめ、高価な革に入っていた。この箱の全内容を、その夜、我々は百五十万ドルと見積った。ところが、その後、その装身具や宝石類を(いくつかは我々自身が使うのに取っておいたが)売り払ってみると、我々がこの財宝をよほど安く値ぶみしていたことがわかったのだった。
いよいよ調べが終って、はげしい興奮がいくらか鎮《しず》まると、ルグランは、私がこの不思議きわまる謎《なぞ》の説明を聞きたくてたまらないでいるのを見て、それに関するいっさいの事情を詳しく話しはじめたのだ。
「君は覚えているだろう」と彼は言った。「僕が甲虫《かぶとむし》の略図を描《か》いて君に渡したあの晩のことを。また、君が僕の描いた絵を髑髏《どくろ》に似ていると言い張ったのに僕がすっかり腹を立てたことも、思い出せるだろう。初め君がそう言ったときには、僕は君が冗談を言っているのだと思ったものだ。だがその後、あの虫の背中に妙な点があるのを思い浮べて、君の言ったことにも少しは事実の根拠がないでもないと内心認めるようになった。でも、君が僕の絵の腕前を冷やかしたのが癪《しゃく》だった。――僕は絵が上手だと言われているんだからね。――だから、君があの羊皮紙の切れっぱしを渡してくれたとき、僕はそいつを皺《しわ》くちゃにして、怒って火のなかへ投げこもうとしたんだ」
「あの紙の切れっぱしのことだろう」と私が言った。
「いいや。あれは見たところでは紙によく似ていて、最初は僕もそうかと思ったが、絵を描いてみると、ごく薄い羊皮紙だということにすぐ気がついたよ。覚えているだろう、ずいぶんよごれていたね。ところで、あれをちょうど皺くちゃにしようとしていたとき、君の見ていたあの絵がちらりと僕の眼にとまったのさ。で、自分が甲虫の絵を描いておいたと思ったちょうどその場所に、事実、髑髏の図を認めたときの僕の驚きは、君にも想像できるだろう。ちょっとのあいだ、僕はあんまりびっくりしたので、正確にものを考えることができなかった。僕は、自分の描いた絵が、大体の輪郭には似ているところはあったけれども――細かい点ではそれとはたいへん違っていることを知った。やがて蝋燭を取って、部屋の向う隅《すみ》へ行って腰をかけ、その羊皮紙をもっとよく吟味しはじめた。ひっくり返してみると、僕の絵が自分の描いたとおりにその裏にあるのだ。そのときの僕の最初の感じは、ただ、両方の
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