―大変妙な立場なんだ。それは話したってどうにもならないような事情なんだ。」
「ジーキル、」とアッタスンが言った。「君は僕を知っているはずだ。僕は信頼して貰ってもよい人間だ。そのことを内証ですっかりうち明けてくれ給え。そうすれば僕はきっと君をそれから救ってあげられると思うのだ。」
「ねえ、アッタスン、」と博士が言った。「君は実に親切だ。君は全く親切だ。何と言ってお礼を言っていいかわからない。僕は君を十分に信じている。僕はどんな人間よりも君を信頼したいのだ。いや、どっちかと言えば、自分自身よりも君を信頼したいのだ。しかし、全くのところ、あれは君の想像しているようなことじゃないんだよ。そんなにひどいことではないのだ。で、ただ君を安心させるだけのために、一つのことを言ってあげよう。僕はそうしようと思う時にはいつでも、ハイド氏と手を切ることができるのだ。そのことを僕は誓うよ。君には幾重にも感謝する。それから、ちょっと一言《ひとこと》だけ付け加えておきたいんだがね、アッタスン。きっと君はそれを悪くはとらないだろうと思うんだが。それは、このことは一身上の事柄なのだから、どうかうっちゃっておいて貰いたい、ということなんだ。」
アッタスンは炉火を見ながらしばらく考えていた。
「君の言うことが至極もっともだということは疑わないよ、」とついに彼は言って、立ち上った。
「それはそうとして、我々がこの件に触れたからには、そして触れるのももうこれっきりにしたいものだが、」と博士は続けた。「君に解って貰いたい事が一つあるのだ。僕は可哀そうなハイドのことをほんとうに非常に気にかけているのだ。君があの男に会ったことは僕は知っている。彼が僕にそう言ったから。で彼が不作法なことをしはしなかったかと僕は気遣っている。しかし僕は、実際、心からあの若者のことをひどく、とてもひどく気にかけているんだ。それで、もし僕が死んだら、ねえ、アッタスン。君が彼を我慢してやって彼の権利を彼のために取ってやると、僕に約束してほしいのだがね。もし君がすべてを知ったなら、そうしてくれるだろうと思うのだ。そして、君がその約束をしてくれるなら、僕の心から重荷が下りるのだが。」
「僕はあの男をいつか好きになれそうな風をすることはできないね、」と弁護士が言った。
「僕はそんなことを頼んでいるんじゃないよ、」とジーキルは相手の腕に手をか
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