一座のなかの私の近くにいた者の口にした二、三言と、グレンディニングの思わず発したまったくの絶望を表わす声とは、彼が、みんなの憐憫《れんびん》の的となって悪魔の仇《あだ》からでも保護されるくらいな事情のもとに、私のために完全な破滅をさせられたのだ、ということを私に理解させたのであった。
このとき私がどう振舞ったろうかということは、言うのがむずかしい。私にひっかけられた男のその惨《みじ》めな有様は、あらゆるものにせっぱつまったような陰惨な様子を投げかけていた。そしてしばらく深い沈黙がつづいたが、そのあいだ、私は、一座のなかの比較的|真面目《まじめ》な連中が自分に投げる、軽蔑《けいべつ》や非難の焼くような多くの視線で、自分の頬《ほお》がちくちくするのを感ぜずにはいられなかった。そのとき不意の驚くべき出来事が突発したために、自分の胸からちょっとのあいだ堪えがたい苦痛の重みが取りのけられたくらいだ、ということを私は白状してもいい。その室の広い、重い両開き扉がとつぜんぱっといっぱいに開かれ、その力強い凄《すさ》まじい猛烈さのために、部屋じゅうの蝋燭《ろうそく》が一つ残らず、まるで魔術で消えたかの
前へ
次へ
全53ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング