のポケットのなかにあるはずのいくつかの小さな包みとを、ごゆっくりお調べください」
 彼がしゃべっているあいだは、床の上へ針が一本落ちても聞えそうなほど、ひっそりと鎮まりかえっていた。言いおわると、彼はすぐに、また入って来たときのように突如として、行ってしまった。そのときの自分の感じを私は書くことができるだろうか――書かねばならぬだろうか? 私は地獄に落ちた者のあらゆる恐怖を感じたなどと言わねばならないだろうか? たしかに私には考えている暇はほとんどなかった。たくさんの手がすぐに私を乱暴にひっつかみ、明りはまたすぐに持って来られた。つづいて捜索が行われた。私の袖の裏から、エカルテにもっとも肝心なあらゆる絵札が発見され、ラッパーのポケットからは、たくさんの骨牌札が発見された。これは私たちの勝負に使った札とそっくりのもので、ただ一つ違っているのは、私のはその道の言葉で言えばアロンデ(11[#「11」は縦中横])という種類のものだった。すなわち、最高札《オナアズ》は上下の縁が少しばかり凸形《とつがた》になっているし、並の札は両横の縁が少しばかり凸形になっているのである。こんなぐあいになっているので、だまされる人は普通のように札を縦に切るものだから、いつも相手に最高札のほうを切ってやるし、だますほうは横に切るから、同様にきっと相手に点になるような札は一枚もつかませないことになるのだ。
 このことが露顕したとき、みんなが一時に憤りたててでもくれたなら、それほど私も参らなかったろうが、みんなはただ黙って軽蔑の色を浮べ、または皮肉な様子で平然としていたのだった。「ウィルスン君」と部屋の主人は、体をかがめて、珍しい毛皮のすばらしく贅沢《ぜいたく》な外套を足の下から取り上げながら、言った。「ウィルスン君、これは君の物だよ」(寒い時候だったので、私は自分の室を出るときに、ドレッシング・ラッパーの上へ外套をひっかけてきて、その骨牌をやる部屋へ入ると脱いでおいたのだった)「この上のお手並の証拠を拝見するために、ここを」(と外套の襞《ひだ》のところを苦々しい微笑を浮べて眺《なが》めながら)「捜すのは余計なことだろうと思う。実際、あれだけでもう十分だ。君はオックスフォードを立ち去らねばならないことはわかっているだろうな。――ともかく、僕の部屋からはすぐさまね」
 私はそのときすっかり面目を失い、
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