やって来やしないだろうか? 僕の早まった仕業を責めに急いで来るのではないか? 階段を上がる彼女の足音が僕には聞えていないのか? 彼女の心臓の重苦しい恐ろしい動悸《どうき》がわかってはいないのか? 気違いめ!」――こう言うと彼ははげしく跳び上がった。そして死にそうなくらいの努力で一語一語をしぼり出した。――「気違いめ[#「気違いめ」に傍点]! 彼女はいまその扉の外に立っているのだぞ[#「彼女はいまその扉の外に立っているのだぞ」に傍点]」
彼の言葉の超人間的な力にまるで呪文《じゅもん》の力でもひそんでいたかのように――彼の差したその大きい古風な扉の鏡板は、たちまち、その重々しい黒檀《こくたん》の口をゆっくりうしろの方へと開いた。それは吹きこむ疾風の仕業だった、――がそのとき扉のそとにはまさしく[#「まさしく」に傍点]、背の高い、屍衣《きょうかたびら》を着た、アッシャー家のマデリン嬢の姿が立っていたのである。彼女の白い着物には血がついていて、その痩《や》せおとろえた体じゅうには、はげしくもがいたあとがあった。しばらくのあいだは、彼女は閾《しきい》のところでぶるぶる震えながら、あちこちとよろ
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